ちょっと得する紙の知識:第38回目【蚕座紙(さんざし)】

「ちょっと得する紙の知識」のコーナー。第38回目は「蚕座紙(さんざし)」についてです。

弊社の商品の中に日本の近代産業に大きく寄与したものがあります。それが蚕座紙です。
蚕座紙を説明する前に、まずは日本の近代産業を支えた製糸業について少し触れる必要があります。しばしお付き合いください。

日本の近代化を担った製糸業と養蚕

明治維新以降、日本の近代産業の一つに挙げられるのが製糸業です。製糸業とは、蚕が作り出す繭から生糸を取り出し、絹糸にしていく産業のことです。絹糸はやがて絹になり、日本国内はもとより、輸出品として日本の外貨獲得をもたらす貴重な商品となりました。
ちなみに、製糸工場で最も知られているのが、ユネスコの世界遺産にも登録された群馬県にある富岡製糸場でしょう。

富岡製糸場 画像提供:富岡市

製糸業を支えた養蚕農家

そんな製糸業を支えたのは各地にある養蚕農家です。母屋で蚕を育て、繭を製糸工場に提供します。蚕は懐を豊かにし、また母屋で育てているうちに愛情が出てくることから「お蚕さま」と丁寧に扱われました。
養蚕の盛んな地域は様々ですが、中でも埼玉県、群馬県、長野県が一大産地と言われていました。弊社のある埼玉県小川町も、まさに養蚕の盛んな地域でした。

お蚕さま 画像提供:富岡市

蚕座紙の需要拡大

養蚕が盛んになるにつれ、それに関わる商品の需要も拡大していきました。その一つが蚕座紙です。
蚕座紙とは、蚕を育てる時、蚕の下に敷く紙のことです。絹糸の需要が増えれば増えるほど、我々が扱う蚕座紙の需要も当然ながら増えていったのです。

蚕座紙=クラフト紙

では、蚕座紙とはどのような紙のことでしょうか?実は、これはクラフト紙(「ちょっと得する紙の知識:第1回【未晒クラフト】の項を参照)のことです。
恐らく、昔は和紙だったのかもしれませんが、近代以降、安価で比較的手に入りやすいクラフト紙が蚕座紙として選ばれていったのでしょう。
ちなみに、「蚕座紙」の厚さと寸法はほぼ決まっています。
厚さ:50g/㎡
寸法:970×1758
   1050×1770
   1060×1788
詳しいことは分かりませんが、この寸法は恐らく蚕を育てる道具、または部屋に丁度いい寸法なのかもしれません。

やがて弊社の主力商品へと発展

弊社は養蚕の一大産地である埼玉県、群馬県に近いということもあり、最盛期には蚕座紙の需要が伸び、蚕座紙によって売り上げを伸ばしていったようです。
「蚕座紙が小川町駅に貨物で着き、それを見計らってトラックで駅まで走り、貨物からトラックに積み替えて、お客様に届けに行った。あの頃は体が痩せるほど忙しかった」と言うのは、1950年代に入社した元社員の証言です。
現在では、絹産業、養蚕業の衰退に伴い、蚕座紙の需要は落ち込んでしまいました。しかし、「蚕座紙」としての目的で需要を伸ばしたクラフト紙は、今でも弊社の主力商品です。そう考えると、日本の近代産業を支えた「蚕座紙」のお陰で弊社が発展していった、と言っても過言ではないでしょう。

開業当初の小川町駅 画像提供:小川町

参考文献

佐滝剛弘著  「日本のシルクロード」 中公新書ラクレ 2007年
畑中章宏著  「蚕 絹糸を吐く虫と日本人」 晶文社 2015年
志村和次郎著 「絹の国を創った人々 日本近代化の原点・富岡製糸場」 上毛新聞社事務局出版部 2014年
倉田あつ子著 「蚕を養う女たち 養蚕習俗と起源説話」 東京・岩田書院 2021年
河田重三 文 清水勉 写真 「渋沢栄一の深谷 写真で訪ねるふるさとの原風景」 さきたま出版会 2021年
高崎経済大学地域科学研究所編 「富岡製糸場と群馬県の養蚕業」 日本経済評論社 2016年